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「千秋……千秋、眠ったかい?」 「…………」 「ふっ。浮かれていたのは、俺だけじゃなかったのにな。何だかんだ言って君だって充分、浮き足立っていたよ」 驚いて大声を出せないように、出会い頭に手で口を塞いだのはそのためだったが、嫌がらせをした俺を非難しながらも、目がずっと笑っていた。 逢えて嬉しいってずっと誘うような眼差しで見るものだから、それに応えてしまった。考えもなしに、無茶苦茶にしてしまったんだ。 「こんなに線の細い君を手荒に何度も抱いてしまって、悪かったと思ってる。ごめん……」 疲れきって眠ってしまった千秋の頬にキスをして、その身体をぎゅっと抱きしめる。 帰ってきたというか、戻ってきたというか――君の香りもぬくもりも俺への想いもそのままだっていうのに、部屋に押し入った瞬間、五感が敏感に反応してしまった。 まだ抜け切れていない昨日の宴会の雰囲気や、煙草の残り香が部屋の中に漂っていた。その場を楽しく過ごしたであろう千秋には大変申し訳ないが、1日お預け食らった分に嫉妬心が加算されたのは、いうまでもなく――。 久しぶりの再会だからこそ優しくしなければという、もうひとりの自分の言葉をしっかり無視して、力任せに床に押し倒して力任せに服を脱がし、力任せに抱いてしまった。 数歩先にはベッドがあるというのに、冷たい床の上に千秋を組み敷いた俺はあのとき、どんな顔をしていたんだろう。 『あっ、はぁっ、……穂高さ……ん……ぅ!』 ――文句を言いかけた君の口を、まずは塞いでから。 『さっきの言葉を言うまで、絶対に離さないよ千秋。止めてあげない』 耳元で囁いて、耳の縁をなぞるように舐めあげる。自分でも驚いてしまうくらいのアヤシげな声色に、千秋自身も相当驚いていたんじゃないかな。 『はぁう…… ひっ……あっ、あっ……』 切なげな表情を浮かべながら甘い声をあげるこの姿は、俺だけが見ることのできる特別なもの。 『いきな、り、どこさわ、あっ、ひゃっ……やめっ――』 いきり勃ったコレとか俺を感じさせてくれるココとか、千秋の感じる部分すべて、自分だけが触れることを許されているというのに。 『止めないよ。もっと感じてごらん』 床の上で粋のいい魚のように動く淫らな千秋を、押し寄せてくる膨らんだ感情が更に追い討ちをかけた。 室内のむっとする熱気が、俺たちを包み込む。手早く自分の服を脱ぎ捨てて、首筋に顔を埋めた。目に入るのはやはり、自分がつけてしまった痣。綺麗な白い肌についてるそれが、千秋が俺のものだという印に見える。 その部分に刺激を与えたら、更に色濃くなってしまうのは容易に想像ついたが、嫉妬心とか独占欲で支配してる心が俺を簡単に突き動かした。 『はっ!? っ、いっ……んっ!』 消えない痣ができてから、こんな風に強く咬まずにいた。今頃、どうしてだろうと思っているか。 『ほ、穂高さんっ、痛いよ……』 俺の背中をバシバシ叩いて、痛みをアピールする千秋の顔を見やる。 男が差し出したペットボトルを、美味しそうに飲んだ罰だよ。なぁんて言ってやりたかったが、それを口にしてしまうとどんどんイジワルに拍車がかかるから我慢だな。 『千秋も、俺を咬んでくれ』 しれっとしながら強く咬んだことを謝らずに、左首筋を差し出してやると、勢いよくはぐっと咬みついてきた。咬みつきながら、ちゅぅっと皮膚を吸う感覚が伝わってくる。 『くっ、千秋っ!』 『穂高さん、穂高さんっ……もっと』 もっと――何だろう? と思ったので聞き取るべく耳を傾けてやったら、いきなり耳朶を吸い上げながら、きゅっと甘噛みする。 『わっ……ダメだよ、千秋』 感じるには感じるがくすぐったさが先行するので、これは違うことになってしまう。 『穂高さん逃げないで。感じてるところが見たいんだ』 掠れた声で告げた千秋の表情は、ものすごくそそられる何かがあって、見てるだけでゾクゾクさせられた。 『俺の感じるところがみたいなら、千秋が感じればいい。それだけで感じることができるから』 『だって……』 『千秋のあげる声や仕草ひとつで、俺のがこんなになってるんだよ』 空いてる右手を掴んで、その部分に導いてやる。 『わっ!!』 『ね、すごいことになってるだろう?』 『あの……その、あ――』 『俺をこんなにした罰、その身に受けてくれ……』 柔らかい千秋のくちびるに強く、自分のくちびるを押しつけた。その後、千秋を先に感じさせてあげてから、力が抜け切ったその身体をぎゅっと抱きしめ、ひとつになった。 『ぅっ……ひっ…うっ……』 『大丈夫かい、千秋?』 『ぁ、く、苦し、ぃ……』 長い睫を揺らしながら、肩で息をしている千秋。苦しさのあまりに歯を食いしばっている姿すら、愛おしくて堪らない。 あまりの可愛さに、更にぎゅっと抱きしめてしまった。 『くっ、息がっ……できな、いよ』 『やっとひとつになったというのに、文句を言うなんて。結構無粋なんだな君は』 苦笑いしながら力を抜いてやると、涙目で俺を見つめる。 『もっと優しくしないと俺、壊れちゃうかも。さっきから強引すぎますって』 (強引にさせている原因を、君が作っているというのに――) 『だってさっきから穂高さんが、俺の言うことを無視して、どんどん――っ!?』 『どんどん……なんだい?』 『んぁっ、い、きな、りっ!?』 他にもいろんな文句を言いながらも、しっかり感じて俺を受け止めてくれる千秋をじっと見つめ返してやる。 『あぁ……やめっ、ほ、らかさんっ、も!』 (マズいな――淫らな千秋を見てるだけで、いつも以上に感じてしまっているじゃないか) 『よいしょっと、大丈夫かい?』 余裕のあるフリをして、千秋を抱き起こしてあげた。硬い床の上に、いつまでも寝かしておくのは可哀想だから。 『はぁはぁ……。ほらかさん、ってば……激しすぎ、れすよ』 ぐったりした千秋は俺の肩に頭を乗せて、やっとという感じで体を抱きしめてくれる。 ――重なった素肌の熱が、すごく心地いい。 『だったら今度は、千秋が上になるかい?』 『そう言いつつも、何か企んでるでしょ? 穂高さんの目、アヤシく光ってる』 『そんな風に言ってくれるが、企む余裕なんてさらさらないよ実際。ただ――』 間近にある千秋の潤んだ瞳が、俺の顔を食い入るように見つめた。それだけで感じさせることができるって、君は知らないだろうね。 『千秋と深く愛し合いたいだけ。愛されたいだけなんだ』 細い身体を、ぎゅっと抱きしめ返す。 『穂高さん……』 『激しさで愛を示すことができるなんて思っていないが、こうやって求めずにはいられなくてね』 『あの……嬉しい、です。嬉しいけど戸惑っちゃって』 睫を伏せて、耳まで顔を赤らめた千秋がすごく可愛い――。 『恥らう姿もいいけど、同じくらい求めて欲しいな。俺を欲しがってくれ』 『ま、また難しいことを言って……』 『そんな難しくないって。だって目に見える形で、君は俺を求めているワケだしね』 笑いながら目に見える形を、ぎゅっと握り締めてやる。 『んっ、ぅぁ――』 『身体全部で、俺を求めて千秋。君だけなんだよ、俺を感じさせることができるのは』 『ほ、だかさんっ、そん……なに、しちゃっ!』 言いながら容赦なく、千秋の中にある俺自身をぎゅっと締めあげてきた。ダメだ、我慢の限界が――室内に、俺たちの荒い息遣いがこだまする。 『あぁっ……穂高、さんっ…好きぃ、いっ!』 『千秋、ちあ、きっ、俺も、だ……ん、っ――』 先ほどまでの行為をぼんやりと思い出しながら、寝てしまった千秋を優しく抱きしめ直す。 以前ならこんなときは煙草を吸って嬉しさを噛みしめていたが、そんなものがなくても満たされている気持ちの原因は、きっと――。 (千秋が俺を好きでいてくれるから。求めてくれるからなんだろうな) 落ち着かないような切ない愛しさを抱きしめて、この日は何とか眠りについたのだった。*** その日、いつものようにバイトに勤しみ、何ごともなく終えることができた。竜馬くんと一緒に仕事をしないだけなのに、ビックリするくらい疲れがなくて――。「それだけ彼の存在が俺にとって、ストレスになっていたんだな」 ぼそっと独り言を言いながらロッカーを閉め、軽い足取りで店の外に出た。体を包み込む冷たい空気も、全然平気――穂高さんもこの時間、海の上で頑張っているんだよなと口元に笑みを湛えたときだった。「お疲れ様、アキさん」 音もなく突如現れた竜馬くんに、絶句するしかない。この状況って俺が穂高さんに迫られたときと、まったく同じじゃないか。「な、んで?」 反応しちゃダメだって穂高さんに言われてたけど、待ち伏せされるなんて思ってもいなかったから、つい声をかけてしまった。「何でって、それは俺が言いたいよ。いきなりシフトを変えちゃうんだもんな。大学だって逢うのはマレなのに、ここでも逢えないとなったら、アキさんの帰りを狙うしかないじゃないか」 帰りを狙うって、そんな――。「ハハッ、すっごく驚いた顔してる。それに安心して。夜道で襲ったりしないから」「と、当然だよ、そんなの……」 今更だけど動揺しまくりの顔を見られないように顔を背けつつ、足早に歩き出した俺の隣にピッタリと並んで歩く竜馬くん。 ――思い出しちゃう。穂高さんと正式に付き合う前に、一緒に帰っていたのを。やってることがまったくと言ってもいいくらいに同じで、頭を抱えるレベルだった。「俺ね、アキさんが大学構内の階段下で電話してるの、偶然聞いちゃったんだ」「!!」 竜馬くんの言葉に一瞬声が出そうになり、慌ててくぅっと飲み込んだ。(――何であそこにいるのが、バレたんだろ?) 不思議に思って隣にいる彼のことを、恐るおそる見つめた。「『愛してる、穂高さん』って言ってるのを聞いて、すっごく妬けた。井上さんが羨ましくなった。だけどね……」 ため息をつきながら、こっちを見る。だけどそこはあえて無視しなきゃいけないから、視線を逸らそうと試みたけど、竜馬くんから放たれる熱のこもったものがすごくて、どうしても逃げられなかった。「俺の心の中に、蒼い炎がメラメラと燃え始めたんだよ。きっとアキさんの心に火を宿すために、俺の心に蒼い炎が点火したんだと思うんだ。この炎で君を包み込んで、奪ってあげるから。覚悟してほし
竜馬くんとの接触を控えるべく、まずはバイトのシフトの時間を変更しようと大学の授業が終わってから、コンビニに真っ直ぐ向かった。 従業員入り口から事務所に入ると、店長がパソコンの前で仕入れ状況の確認をしているところで、その背中に大きな声をかけた。「お疲れ様です!」「お疲れー。あれ、今日シフト入ってたっけ?」 キーボードの手を止めて小首を傾げながら、俺の顔をわざわざ見つめる。「いえ……。あのその件で、ご相談したいことがありまして」 店長がシフトという言葉を口にしてくれたお蔭で、すんなりと話ができそうだ。「紺野くんが深刻な顔して相談なんて、何だかドキドキするな。そういえば、スーパーのバイトを始めたそうだね。掛け持ちがキツくなってきたとか?」 傍に置いてあったパイプ椅子を目の前に用意し、座るように促されたので遠慮なく腰掛けて、背筋を伸ばしながら姿勢を正した。「スーパーは週末だけにしているので、全く問題ないんですけど……」 参ったな、竜馬くんとのシフトをズラす理由を考えてなかった――勢いだけで、ここに来てしまったから。「えっとですね大学の単位がですね、ちょっとだけヤバいのがあって……。できれば今のシフトの曜日を、変更していただけたら助かるんですが」 自分のバカさ加減を思いきり晒してしまうセリフになっちゃったけど、こうでもしないとシフトの変更をしてもらえないだろうと咄嗟に考えつき、眉根を寄せながら臨場感たっぷりに語ってみた。 俺の言葉に店長はパソコンの画面にシフト表を映し出して、う~んと唸る。「曜日の変更ねぇ。回数も減らした方がいい?」「やっ、そこまでしなくても大丈夫です! 曜日だけ変えていただければ、まったく問題ないですし」「だったら、俺のシフトとチェンジしたらどう?」 扉をノックする音と一緒に、聞き慣れた声が事務所の中に響いた。その声に振り返るなり、目が合った途端に微笑んでくれる。「ゆっきー?」「おっ、雪雄。いきなりの登場で話に入り込むとか、ちゃっかり盗み聞きしてただろ?」 店長はゆっきーの叔父さんにあたる人で、やり取りを見ていると親子のように仲がいい。「まぁ結果的には、そうなっちゃたけどさ。入りにくい雰囲気が、事務所の外まで漂っていたからね。で、シフトの話はどうかな千秋?」「ゆっきーのシフト?」「そ。ほら叔父さん、見せてやっ
***「だけど人の心は、移ろいやすいから。心変わりさせるキッカケを作って、アキさんを奪ってみせます」 険しい表情を浮かべて強気の発言をした竜馬くんを、ハラハラしながら傍で見つめるしかできなかった。 電話に出た当初はすっごく弱々しかった竜馬くんが、途中からガラリと態度が変わっていくとともに、会話の内容もエスカレートしていった。 竜馬くん側の内容しか分からないから何とも言えないけれど、穂高さんが挑発するようなことを言ったとは思えない。「俺の千秋に近づいてくれるな」とか、それに似たような言葉で止めに入っているはずだと思う。「ぁ、あのね、竜馬くん……」 耳からスマホを外して俯いたままでいる彼に、そっと声をかけてみた。 穂高さんとやり合った後なので、間違いなく興奮しているだろう。余計な話をしないで、さっさとスマホを返してもらおうと考えた。「そろそろスマホ、俺に返してくれないかな? もうすぐはじまる講義に行かなきゃならないし」 ごくりと唾を飲み込んでから、恐るおそる口を開いた。 次の講義は休講だったけどこう言えばすぐに手渡してくれると思い、アピールするように付け加えてみた。それに竜馬くんとふたりきりでいることも上手く回避できるという、一石二鳥のアイディアだった。「ゴメンなさい、アキさん。電話が終わったら、一気に力が抜けちゃって」 謝りながら1歩近づいてきた竜馬くんに向かって、右手を差し出した。その手にスマホを、載せてくれると思った。「わっ!?」 何の挙動もなく、いきなり抱きつかれてしまった。「イヤだっ!! 放してよ、竜馬くんっ!」「アキさんの中にある心の隙間に絶対に入り込んで、井上さんから奪ってあげる」「やぁっ! 耳元で喋らないで。いい加減、腕を外してって」 身長差が少ししかないから耳元で喋られると、吐息がダイレクトに耳に入ってきて、否応なしに感じてしまう。抵抗する力まで抜けてしまうくらいに。「へえ、耳が弱いんだ。それにすっごく可愛い声を出すんだね。乱れたアキさんの姿、見てみたいな」「お願いだから解放してよ。これ以上、何かしたら嫌いになるから」「分かった、嫌われたくないし。だけど覚えておいてほしいんだ」「…………」「アキさんを想うたびに気持ちがどんどん加速していって、止まらなくなるんだってこと。すごく君のことが好きだよ」 言い終
*** 毎日電話をかけていたからこそ、確実に千秋が捕まる時間が分かる。右手に持っているスマホを、じっと見つめた。 電話をかけた履歴から、午前10時半からの15分間がちょうどいいタイミングと睨んだ。 あのあとぼんやりしたまま、まんじりとしない朝を迎えてしまった。寝ていないせいで体が重いクセに、頭だけは妙に冴え渡っていた。(いつもなら何も考えなくても、すんなりと言葉が出てくるのに第一声、何を言えばいいのか……。千秋が困ることをしたくはないのにな。だけど、聞かずにはいられない) 今現在、竜馬という男とどうなっているのか。1ヶ月も経っているのに、断ることができていないのなら俺がそっちに行って、手を出すなと警告しなければならないだろう。 目の前に美味しそうなニンジンが無防備にぶら下がったままでいたら、手を出さないワケがないんだ。しかも俺の千秋は、可愛いのだから――。 あの顔でイヤだと言われたら、自動的にイヤがることを率先したくてたまらなくなるという、黒い自分が現れてしまう。俺と同じように執念深くてしつこい男なら、同類の趣味をしている可能性が高い――。 それゆえに千秋が明らかな嫌悪感を示さない限り、ずっと追い続けてしまうだろう。 俺が千秋を落したように、あの男も時間をかけて口説き落とそうとしているに違いない。簡単に渡して堪るか。 千秋と一緒に過ごした時間が、とても濃密だった。そしてふたりで、いろんなことを乗り越えてきた。だからこそ離れていても、強い繋がりができてると思っている。だが――。「そう思っているのは、俺だけなのだろうか?」 そんな自問自答を繰り返している内に、待っていた時間となった。 スマホを持っている手が、微かに震える。そのせいで上手く操作ができないなんて、情けないにも程がある。(必要の無い思い遣りなんて、しなくていいのに。千秋――) 無駄な体の力を抜くべく、はーっと深い溜息をついてからリダイヤルした。耳にスマホを当てた途端に、もしもしという可愛い声が聞こえてくる。「千秋、おはよう」「あ、おはようございます……」「今、大丈夫かい?」「はい。次の講義が休講になっちゃって、どうしようかなぁと思っていたところで」 ――ということは、時間はたっぷりあるんだな。「ね、昨日はあの後、グッスリと眠れたかい? 昨日じゃないか、そういえば」
***「千秋、可愛かったな」 離れているからなのか、いつもよりも察しのよかった千秋。俺がしたかったことを瞬時に嗅ぎとり、急いで自宅に帰ってそれを実行してくれた。『……っん、っふ……っう…』 スマホから聞こえてくる恥じらいを含んだ声色のせいで、俺自身が一気に張りつめてしまう。一緒にイキたいのに情けない。『うぁ、ほら、か……っ、さんっ……ぁあ、気持ち……ぃ、いい?』「いいよ、すごく。ぅっ、きっと千秋の中に入れた途端、んぅ…爆発してしまう…かもね」『そんなのっ、やっ、も、もっと……俺を感じさせて、くれ、なきゃ……』 こんな風に言われたんじゃ、意地でもガマンするしかないじゃないか。嬉しいね、まったく。「イヤだと言ってるが、俺を待たせたのは君だよ、千秋……いっ、今っ、何をしているんだい?」『な、何って、あぁ…あっ、そんなの、言わせな、い、で』「見えないから、聞いた、だけなのにイジワルだな。だけど、んっ、知ってるよ。どうなっているのか」 今すぐイキたい衝動に駆られるが、ここは必死にガマン――とにかく千秋を感じさせてあげなければ、ね。翻弄するツボは心得ている、とことん感じさせてあげるよ。 自身の弄っている手を緩め提出、千秋の淫らな姿を想像した。「千秋は俺のと違って、蜜をこれでもかと溢れさせるからね。きっと手元が、すごくヌルヌルになっているだろう?」『やっ、言わないで……』「その音を聞かせろなんて、ワガママは言わない。その代わり感じやすい先端部分、俺がいつもするみたいに弄ってごらん。今の俺の言葉だけできっと、蜜がたくさん滴ってきただろ? 間違いなくすごく感じると思うんだ、気持ちいいハズだよ千秋」 耳元に囁くイメージでいつもより低音で告げると、震える声で無理だという一言が返ってきた。「どうして無理なんだい? まだ余裕があるだろ?」『そ、んなのっ、な、ないって。もぉ、あっ…あっ、穂高さ、ひぃっ、イく、イっちゃう……』 その声に導かれて緩めていた手に力を込め、ストロークを目一杯に上げる。「俺も一緒にっ、くっ……うぅっ――」 声にならない声をあげ、瞬殺してしまった。姿が見えても見えなくても、千秋にイカされっぱなしだ。 またシようねと乱れた息をそのままに言ってあげたら、もうイヤだと言いつつも、どこか嬉しそうだった千秋。その雰囲気を感じとって笑い
*** 事務所で頭をきちんと冷やしてから店舗に顔を出したときに、もう一度竜馬くんに謝った。「大好きなアキさんがそんな顔してるの、あまり見たくないからさ。俺ができることがあれば、遠慮なく言ってほしいな」 ちゃっかり自分の気持ちを吐露しつつ優しい言葉をかける竜馬くんに、ありがとうとひとこと言って、その日はやり過ごした。(友達としての好きなら、こんなふうに複雑な気分にならずに済むのにな――) そう思いながらバイトを終えてコンビニから出た瞬間、ポケットに入れてたスマホが振動する。慌てて手に取って画面を見た。「……穂高さん」 漁の休憩と俺の帰る時間が、上手く重なったのだろうか? ちょっとだけ息を吐いて重たい気持ちを払拭してからタップし、耳にあてがった。「もしもし? 穂高さん?」「バイトお疲れ様。千秋」 電話の向こう側にいる穂高さんはとても晴れやかな声をしていて、それを耳にした瞬間、今日の疲れが吹き飛んでしまった。 竜馬くんのひとことでトゲトゲした自分が、バカらしく思えてならない。「穂高さん、今、大丈夫なの?」「ん……。今日は昼から、海が時化(しけ)ていてね。波が高いから、漁は中止になったんだよ」「わざわざ起きて、俺の帰りを待っていてくれたの?」 毎日かけてくれる穂高さんからの電話――竜馬くんのことを伝えられない関係で心苦しいところがあれど、こういうことをされちゃうと無条件に、胸の中があったかくなってしまう。「一応寝ようと思って、ベッドには入ったんだ。でも隣に千秋がいないと、どうも寝つきが悪くてね。ひとりでいると君の声が聞きたくって、堪らなくなるんだよ。参った……」「そりゃ俺だって、穂高さんの声を聞いていたいけどさ。でも休めるときは、きちんと休んでおかなきゃダメだよ」 背筋をピンと伸ばして、足早に歩いた。参ったと言ってる穂高さんの声に、思わず笑みが零れてしまう。「分かってはいたんだが、どうしても千秋にお疲れ様が言いたくて」 まるで駄々っ子みたいなセリフの羅列ばかりで、唇に笑みが浮かんでしまう。「ありがとう。すっごく嬉しい」「俺も嬉しいよ、千秋の元気な声が聞けて。そっちに帰ってからどことなく千秋らしくなくて、心配していたんだ」(あ――……)「千秋……千秋。島で過ごした夏休みは、君とずっと一緒にいたからね。こうやって離れてしまう